あらためて「不登校」を考える

不登校の増加は「普通でない状態」の子が増えているの?

文部科学省が2021年10月に発表したデータによると、小・中学校における不登校の児童生徒数は19万6,127人と過去最多。学年があがるほど、不登校の児童生徒の数が増加しています。(出典::文部科学省「令和2年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」)

この調査の先には、学校に行くことが「普通」であり、学校を休むこと・行かないことは「普通でない状態」という意識が見え隠れしています。不登校の増加は「普通でない状態」の子が年々増えているという状態だということになります。


「不登校問題」という言葉への疑問

学校に行くことが「普通」であるのであれば、学校に行かないことは「普通ではない」状態ですね。学校に行かない理由に関わらず「普通でない」認定されてしまうことは「多数でない状態」=「普通じゃない状態」に置かれることを意味するのですが、このことを「不登校問題」という言葉でひとくくりにしても良いものなのでしょうか?


保護者の思いは社会で「普通」に暮らして欲しい

不登校のお子さんを持つ保護者の方とお話をしていると、「何はともあれ、大人になったら社会で普通に暮らして欲しいんです。普通に暮らすには普通に学校に行ってないと厳しいですよね・・?」という声を多く聞きます。


「普通でない」はやっぱり居心地が悪い

学校に行けない・行かない状態を「普通でない」と言われ続けるのは居心地悪くないですか?それはなぜなのでしょう。そこにはアイデンティティ確立におけるプロセスのまずさに原因があります。


青年期におけるアイデンティティの確立への苦しさ

11歳頃から14歳くらいまでを前期青年期、14歳から17歳くらいまでを中期青年期、それ以後を後期青年期と呼びます。この時期、「自分は誰であるのか」というアイデンティティ(自我同一性ともいいます)の確立に苦しむことがしばし見られます。アイデンティティを確立させる過程でどうしても他者と比較しがちになり、その結果コミュニティの中で「多数でない状態」=「普通じゃない状態」に置かれることへ不安を感じてしまうことにその原因を探ることができます。


「無理ゲー」化した不登校「問題」

明治以来150年続く一大国家プロジェクトである「学校教育」に対する世の中への影響力は良くも悪くも大きいものです。社会で「一人前」に生活している人の多くは「学校教育」というゲームをクリアしているからだと思う人がまだまだ多くいるのが現状です。では「学校教育」というゲームから離脱し、「不登校」というゲームを選択した場合、その「クリア」はどこにあるのでしょうか?実は、「不登校」が「問題」である限り、クリアするには「学校教育」に戻るしかありません。いやいや、「学校教育」ゲームから離脱して「不登校」ゲームをスタートしたのに、、それってクリアと言わないじゃないか!!そう、クリアすることのできないゲーム=「無理ゲー」なんですね。


不登校「問題」を「解決」させる考え方を捨てよう

私たちが社会の中で耳にする「○○問題」という言葉の先には必ず「解決すべき○○」が存在します。しかし、不登校を「問題」にしても、それは無理ゲーであるので「解決すべき○○」はいくらがんばっても見つかりません。ではどうすれば良いのでしょうか?


「問題解決」「課題達成」という言葉の大切さ

「問題」と「課題」を混同している人はいつまでも「無理ゲー」のプレイヤーになってしまいます。

 ・問題とは「理想の状態」と「現実」のギャップを産み出している現在進行形で抱えている「problem」

 ・課題とは「理想の状態」と「現実」のギャップを埋めるためにやるべきこと「what to do」

そう、「問題」は「解決」するものであるとすれば、「課題」は「達成」するものなんですね。


不登校から「達成すべき課題」をみつけよう

不登校を「解決すべき問題」として捉える限り、無理ゲーであることは何度も言いました。そこで大切なのは、不登校という現実から、その子の「理想の状態」を設定し、そこに至るための「what to do」すなわち「達成すべき課題」を見つけることです。


「達成すべき課題」は「普通」の定義を変えること

しかし、不登校の子どもの数が増えている中、我々大人はどうこの状態にアプローチしていけば良いのでしょうか。最初にすることは「子どもたちの理想の自立像」を描くことです。不登校の子を抱える保護者が願う「社会で普通に暮らして欲しい」という言葉は言い換えると「自立した大人になって欲しい」ということです。そのために、達成すべき課題の一つとして、「普通」という言葉の定義を変えることが必要です。私たちは「達成すべき課題」視点から見る新しい「普通」をニュースタンダードと呼びます。


奉還町TERACO 代表 野村泰介